人気ブログランキング | 話題のタグを見る

犬とおじさん  2月23日

郊外にある材木などの資材置き場。そこに並ぶ
コンテナの隙間で、4匹の仔を産んだ。

出入りするトラックにひかれないように、安全を
確保して子育てをしていた大きな母犬。

仔犬のうち2匹はやさしい人に貰われていき、
後の2匹もいつしか見かけなくなった。
けれど母犬はずっと前から住みついていたのか
いつもそこにいた。雨の日も、風の日も。

仕事のトラックでやってくるたび、動物好きの
おじさんは、自分の昼ごはんを分けてやったり、
時には犬のために、と買ってきたものをやった。

ある日、よろよろと油断して車の前に飛び出し
あわや!という場面に出くわしたおじさん。

えさのある時には寄ってきてもそこはノライヌ、
警戒心むき出しの彼女を無理やり保護し、
必死の抵抗を無視してトラックに押し込み、
連れ帰った。その日を彼女の誕生日にした。

これまで心ない人間に、こわい目にあわされた
こともあったのだろう。痛いとか寒いとか、
厳しい環境で沁みついたもの、初めのうちは
威嚇して唸ったり暴れたり、と野生のままだった。

やがて、おじさんが、自分を可愛がってくれる、
信頼できるニンゲンであり、もうひもじい思いを
しなくてもいいのだと心を許した。
ノライヌは飼い犬になった。名前もついた。

それから十数年。おじさんには絶対服従、
そして唯一心を許す相手となった。
おじさんの言葉を聞きながら、確かに理解して
いるような表情をするのが、傍目にもわかる。
そこには誰も何も、入り込む隙間はない。

散歩の途中に飛び出してきたネコを咄嗟に
追いかけ、綱を持つおじさんを引っ張り溝に
落としてけがさせたり、予防注射の病院で
大暴れしたり、庭の柵を体当たりでぶち壊して
脱走したり・・

ノライヌ時代の逞しい本能に基づく行動を
叱られながらも、おじさんにとっても、人間の
家族以上に大切なパートナーとして深まる絆。

心残りがあるとしたら、コイツより先にわしが
死ぬことや。
おじさんはしみじみ言った。

彼女はすっかり足が衰え、朝晩の散歩もとぼとぼ、
軽々飛び越えられていたわずかな段差や、
ゆるやかな坂道でさえやっと。
年月はおじさんをおじいさんにし、そして犬も
老いた。切なくも、目に見える形で。

2013年の異常な猛暑をなんとか乗り切り、冬を
迎え、年を越した。食は細くなり、少し痩せた。
もう先長ないやろから、遺影を撮ったって
くれへんか
、おじいさんは言った。

この「おじいさん」は、私の父。
帰省するたび、彼女の姿がこの世から消えて
しまっているのでは、と庭をこわごわ覗く。

それは、犬がいなくなる淋しさに加えて、
彼女がいなくなることで、父が張り合いをなくし、
がっくりとする姿にかける言葉がない自分の
不甲斐なさが辛いのだと思う。

孫を見せてあげられなかった、という負い目と
重ねるのは、私だけの些細な感傷なのだろうか。
犬とおじさん  2月23日_e0061785_637443.jpg

Commented by 華子 at 2014-02-23 19:38 x
小説みたいな素敵なお話。
うちの実家の拾った野良猫も年明け大往生し、父は腑抜けになってます(。-_-。)
子猫でも飼ったら?と言うと「猫よりお父さんが先に死んだら後の猫が心配」と。後はちゃんと受け継ぐからと、只今説得中。
ペットと人間、お互いに支え合ってるのね(^^)
Commented by ca0lizm at 2014-02-24 19:16
***華子さま

動物は人間より寿命が短いとわかってはいても、失うのは本当に
辛いですね・・・。絆というものをひしひしと感じます。
今まで聞いたこともないほどやさしげに彼女に話しかけているのを
みていると、彼女に長生きして欲しいと心から思います。
お父さんが笑顔になれるなにかに出会えますように(^○^)
by ca0lizm | 2014-02-23 05:00 | いきもの | Comments(2)

 心の琴線に触れるもの


by ca0lizm